サルブン  
2003+9
 

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ポートランドでオレは
ランディ・クートァーに会ったのだ。
総合格闘技の草分けでもあるところのアルティメット大会
UFCの元ヘビー級チャンプなんである。
アマレス出身の格闘家である。
ランディは現在新日本プロレスにいるジョシュ・バーネットに破れて王座を追われ
その後リコ・ロドリゲスにも負けて
もう終わりか、とささやかれていたのであり
オレも心の中ではもうだめかなーとささやいていたのだ。
なぜかといえば
ランディがもう40歳だからなんである。
マンガ家だったらなんの問題もない年齢だが
格闘家としては非常にやばい年齢でもある。
それは肉体的な部分もさることながら
モチベーションなどに大きく作用してくる年齢だからなんである。

そんなランディは今年階級を落として復活した。
とはいえ実はランディは、アマレス時代の
ウエイトに限りなくちかい階級に戻ったのであり
ランディにとっては「グッドシェイプ」という事なんであるが
復活の相手はチャック・リデル。
強烈な打撃能力を有するはっきし言って強敵なんである。
下馬評ではリデルが勝つだろうとささやかれていたのだ。
なにやらささやいてばかりだが
正直オレもだめかなーとささやいていた。
なんせ40歳だし。
オレなんか腰痛だし
集中力はないし
記憶力は悪くなる一方だし
尿のキレは悪いし。
オレはそうやって自分とランディを同一視してたんである。
しかしランディは見事なタクティクスと勇気とフィジカルとテクニックで
リデルを圧倒した。
そして勝ったのである。わー!勝った勝った!

オレはその試合で感動した。
それまではオレの中ではランディは「まー強いけどそんなに好きなスタイルじゃないしー」
とゆー位置にいた格闘家であったのだが、このリデル戦で
見方は変わった。
息も絶え絶えに判定で勝ったんじゃないんである。
はっきし言って強敵のリデルを終始圧倒し
ランディのゲームを展開して文句なしの勝利をしたんである。
40歳最強。
オレの中でランディの存在は大きいものとなった。

そのランディがティトと闘う。
ティト・オーティズ28歳。
前UFCライトヘビー級チャンピオンにして
バッドボーイの異名をとる頭の大きな
そして強い強い男なのだ。
前チャンピオンと言っても誰かに負けて転落したわけじゃなくて
試合をしなかったので単純に王位を返還させられただけなんである。
キズはついていない。
現在最大のチャレンジャー。
あるいはランディこそがティトに挑戦する、という見方さえささやかれていた。
またささやいてるが
いやそのくらいティトは強いんである。

そんなティトと闘う2週間前のランディと会った。
relaxの取材で会えることになったのだった。
ポートランドにあるランディの道場、チームクエストに行って
まず練習を見せてもらったのだが
なんだこのひと。
2時間ほとんど休みなくスパーリングをしてるんである。
若いジム生はあきれたように
「これが毎日なんだ。こんな人間いないよ」
とオレにささやいた。
世界はささやきに満ちている。
果てしのない肺活量を持つ男。
2時間の練習を終え、にこやかに、かつ汗まみれで
オレたちの取材に応じてくれるランディ。
ふたたび繰り返すが
2週間後にはめちゃめちゃ強い危険な男と闘うんである。
金網の中で。
しかしランディは自然体をみじんもくずさず
気取らず淡々と取材に応えてくれる。
質実剛健、とか
寡黙、とか
そんな単語がこれほど似合う人間もそうはいないのだった。
静かなるランディ。

そして今日ラスベガス、マンダレイホテルで行われたUFC44で
もう言っちゃえばランディはティトに勝った。
完全にティトは完封された。
ほぼすべての時間を、ランディの下にティトは閉じこめられたまま
5ラウンドが終わった。
終わってみれば圧勝。
もう誰もランディが終わったなんてささやかない。
少なくともオレはささやかない。
てゆーか叫んでました。テレビの前で。歓喜の叫び。
そんでちょっとだけ泣いた。
背中の毛が全部立っていた。
しかしテレビの中のランディは落ち着いた笑顔を見せて立っていた。
為すべき事をやり遂げて、その当然の結果を自然に受け入れてる、
そんな佇まいだった。
ティトは唇を震わせ号泣していた。
誰もが恐れたティト・オーティズがカメラの前で少年のように泣きじゃくるのだった。
ティトはまだ強くなる。
しかし今日は40歳のランディ・クートァーが強かった。
ほんとにほんとに強かった。
ビバ、ランディ。

取材のとき一番聞きたかったのはモチベーションの維持についてなのだったが
その質問をするとランディはこう答えたのだった。
「自分はコンペティションが好きで
その中にいられることがしあわせだ。」
モチベーションもへったくれもないのだった。
好きだから、という拍子抜けするほどのシンプルな闘う理由。
そして時になによりも強いのはシンプルである、という事であり
とりあえず今日はそうだった、という事だ。

ちなみに上の白目むいた犬はランディんちの愛犬なんであります。
名前は忘れた。
40歳は忘れやすいのである。


ツールド信州あらためツーリング・デ・信州が
もうじき開催なのですが残念無念ながら今年は欠場。
腰はずいぶんいいんだけど
ぜんぜん走り込んでないのでダメなんす。
さらにシェイプしたという噂のあの人も
多摩川で猛烈に練習していたといわれるあの人も
なかなか体重の落ちないあの人も
改造ママチャリで走るという嫌味な速さのあの人も
参加者全員
みんな気をつけてたのしんできてください。
スカイスポーツで生中継をみながらシゴトしながら応援してます。
え?生中継はないの?